秘密

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「こ、ろしちゃったぁ…千紗が…動かな、い…」 私はその場で笑うようにも見えるような狂気の声をあげた。 ―…すると。 ザッ、ザッ ザッ、ザッ、ザッ… 校舎裏に近付く足音がした。 その足音は、私に隠れるような時間は与えず、 すぐに、何かを見つけたように立ち止まった。 「…美嘉?」 聞き覚えのあるその声に、思わず振り返る。 そこには、蓮が立っていた。 「…な、に…してんの」 蓮の質問に、私は目を逸らす。 「…千紗を…殺した…。 …警察にでも…連れてって…」 私はそう言って、自分の左手のリストカットの跡を見つめた。 そう。 これは、お父さんから暴力を受ける度にカッターで付けた跡。 「どうせ…私には、初めから、何もなかった…。 ずっと…独りだった」 私は目を伏せた。 そして、 ずっと黙って私を見つめていた蓮が、私に手を伸ばす。 責めるようなその手も、怖くはなかった。 だって私は加害者なんだから…―、 千紗を…、 一人の人間を…― 殺した…―。 私が覚悟して、目を閉じると、 感じた気がしたのは、 誰かの胸の温もり。 私が、蓮に抱きしめられている、と分かるのに、 そう時間はかからなかった。 「…絶対に守る。警察になんか、行かせねぇ」 「…蓮」 私は貴方の恋人を殺したのに。 「大丈夫だって。 俺が全国模試1位なの、知ってるだろ?」 「そういう問題じゃないの…」 そもそも、私を抱きしめた理由も分からない。 私は蓮の胸を押しやり、離れた。 「…美嘉を警察なんかに連れていけるかよ」 蓮は再び、私を抱きしめた。 そして。 「美嘉を絶対、助ける」 蓮が何を思ったのかは知らない。 ―…けれど、 蓮は私にキスをした。 ただ、頭をかき抱く強い手を、 私は信じようと思った。
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