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そこにいたのは今一番会いたくない人だった。
千紗は私から離れた位置にいたが、慌てて駆け寄ってきた。
「どうして先に行っちゃうの?」
千紗は笑顔で首を傾げた。
私は、千紗を睨み付ける。
「…実験室へ先に行って、予習しておきたかっただけなんだけど」
私の返事に満足したのか、千紗は「そっかぁ」と言って、微笑んだ。
「でも、良かったぁ。避けられてる気がしたから…嫌われるようなことしたかと思った」
「気のせいよ…」
私は、目を細めた。
―…気のせいなんかじゃないけれど。そうね、アンタは私に嫌われている。けれど、それはアンタが私を怒らせたから。
心の中で嘲笑う。
そして、ふたりは並んで、実験室ヘと、短い廊下を歩き出した。
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