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「佐之宮警部」
佐之宮と呼ばれた男は、くるりと振り返った。
今は警察署の駐車場にあるパトカーの前に立っているのだが、佐之宮はそれまでずっと何にも興味を示さず、
車に寄りかかり、考え事をしていた。
佐之宮 孝幸(サノミヤ タカユキ)、52歳。
妻子持ちで、刑事歴28年のいわゆるベテランである。
チャームポイントは、ついつい怯んでしまいそうな、その厳つい顔だ。
長身に逞しい体つきをしていて、
射抜くような目も、慣れないと恐ろしい。
「杉山か。どうした」
佐之宮は、メモを片手にこちらへ近付く杉山に呼び掛けた。
杉山 宏樹(スギヤマ ヒロキ)、27歳。
彼はまだ新人で、佐之宮の部下である。
「例の、岡田 千紗の件なんですが…」
「あぁ、行方不明のやつか。…だが、母親も母親だな。行方不明になって一日で、行方不明者扱いか。なんでも緊急だとか。
…警察もどうかしてるな。岡田千紗の母親は、警察のトップの愛人らしい。つまり岡田千紗は警察のトップの隠し子だ。だから警察が動いたんだろう。
母子家庭とはいえ、よほど心配性な母親とみえる」
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