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しばらくすると、
蓮は私の制服を見つめ、
「これ着ろ」
と言って、自分の制服の上着を私の肩に羽織らせた。
私は蓮を見つめ、
「蓮が可愛ぃ~~」
と体をくねらせ、ふざけて笑ってみせた。
その途端、視界が塞がれる。
というより、冷たい。
「……」
蓮が大量の海水をすくって、私にかけてきたのだ。
「ばッ、馬鹿じゃねぇの。ふ、ふざけんな…」
蓮は戸惑ったように、口籠った。
「は?意味わかんないんだけど。さっき私にも言ったくせに…」
怒りに肩を震わせる私の髪から、海水が滴り落ちる。
そんな私とは裏腹に、蓮は満面の笑みを浮かべていた。
「美嘉が、笑った…」
蓮は本当に嬉しそうだった。
蓮は、私が笑ったのがそれほど嬉しかったのか、私に何度も海水をかけてきた。
私の頭の中で、血管がプチ、と切れる音がした。
勿論、私だってやられっぱなしではない。
「馬鹿にしないでよねッ」
私も海水をかけ返した。
でも、二人共、顔が笑っている。
私はただ、素の出せる、蓮との時間を大切にしたいと思った…―――。
雪はいつの間にか止み、雲の間から夕日が射し込んできた。
まるで、嵐の前の静けさ、とでも言うように。
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