欲望

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不意に顔をあげた蓮と目が合う。 私は気まずくて、気恥ずかしくて、目を逸らした。 蓮が悲しげに眉を下げたのが分かった。 不幸中の幸いとも言うべきか、 刑事二人に収穫はなかった“らしい”。 「ご協力、ありがとうございました」 二人はそう言って、学校を去った。 不幸中の幸いだった筈なのに、 私の心の中には、わだかまりが残っていた。 「美嘉ちゃん、可愛かったですねぇ」 校門を出ると、杉山が嬉しそうに頬を緩めた。 佐乃宮は大きなため息をつく。 「馬鹿者。 …だが、この調査で分かったのは、あの二人の関係か。 杉山に、相沢美嘉の手を握らせてみたが、正解だったようだ。 日向蓮は、お前を嫉妬をこめた目で睨んでいたな」 「そうですね。 私としては、美嘉ちゃんに嫌われてしまいましたが」 杉山は残念そうに肩を落とした。 「ところで」 佐乃宮は杉山の話を流し、一番言いたかったことを切り出した。 「今、校舎裏から、女物のネックレスが出てきたんだ」 佐乃宮は上着の胸ポケットから紫の蝶のチャームの付いたネックレスを取り出し、杉山に渡した。 「これは確かに、女の子に人気のブランド・“ロゼンタ”の新作です。 男が女にプレゼントする為の物で、値段はかなり高いですよ」 杉山はネックレスを目に近付けて、まじまじと見た。 「よく知ってるな。彼女いないくせにな」 「誉め言葉として受け取っておきますね」 杉山は怒りをこめた黒い笑みを浮かべた。 ……ロゼンタのネックレス。 それは、紛れもなく美嘉のものだった。
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