欲望

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その時。 「美嘉?何やってるんだよ」 不意に誰かの声がして、四つん這いの状態から顔を上げる。 そこには、目の前で蓮が仁王立ちしていた。 「…ほっといてよ」 私は冷たく言い放ち、蓮から顔を背け、再び探し始めた。 蓮は眉をひそめ、回り込んで私の前にしゃがみこんだ。 「分かった。何してるかは聞かないでいてやるから…、 一つだけ聞いていいか。 ……何で怒ってんの?」 蓮が訝しげに私の顔を覗きこむ。 不意に蓮と目が合い、私は顔を伏せた。 「…何でもないわ」 「じゃあ何で、さっき手を振り払ったんだよ」 「…嫌いなのッ!!」 耐えきれず、私は思い切り叫んだ。 周囲に私の叫び声が響く。 蓮は目を見開いていた。 私は続けた。 「蓮なんか嫌いッ!! 嫌い!!嫌い!!嫌い!! どうして、“あの人”は戻って来ないの!? 戻って来なかったら、“千紗を殺した”意味がないじゃない…」 私はその場で声の限り叫んだ。 蓮が私の腕を掴む。 「馬鹿ッ! 誰か聞いてたらどうすんだよッ!」 「離してよ! アンタなんか…大嫌い…」 私は泣き叫んだ。 眉を下げた蓮が、黙って私を抱きしめる。 その腕の中から、私は崩れ落ちた。 ―…ネックレスは、私の宝物だった。 悠太先輩がくれた、唯一無二のプレゼントだったから。
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