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「……まだ、悠太先輩のことが好きなのか?」
私は言葉を返さない。
返せない。
私は蓮の腕をすり抜けるように落ち、地に膝をついていた。
私は黙って涙を拭う。
―…ごめんなさい。
きっと蓮は、今までにない位、悲しい顔をしてるでしょう?
……だって、私と同じだもの。
私も同じ境遇だった…。
私の頭の中を、千紗の笑みと悠太先輩の困った顔が過った。
それに加え、蓮の悲しげな顔が鮮明に浮かぶ。
私は恐る恐る、顔を上げた。
そして目を見開く。
目の前に、蓮の顔があった。
鼻と鼻がくっつきそうな距離だ。
……私が驚いたのは、そんなことではなく、
蓮が、屈託のない晴れ晴れとした笑顔を浮かべていたからである。
私の頬に、綺麗に一筋、涙が伝う。
蓮は私が思うより、ずっとずっと強かった。
私は自分で思うより、ずっとずっと弱かった。
もし、私が強かったら…―――
千紗が犠牲となることもなかったでしょうに。
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