欲望

12/17
前へ
/110ページ
次へ
「千紗は全部知ってたよ。 俺が美嘉を想っていることを。 付き合う前から」 蓮は笑みを崩さず、私の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。 「嘘!千紗はそんな素振り、一つも見せなかった」 私は乱れた髪をそのままに、地に座り込んだまま、俯いた。 その頭に、蓮が語りかける。 「千紗は、優しかった。 誰も、恨まなかった。 自分だけを犠牲にして、美嘉を傷つけなかった」 私は更に俯く。 そう。千紗は優しかった。 私なんかより、ずっとずっと強かった。 千紗は私を責めないでくれていた。 なのに、私は千紗を…――― 頭にフラッシュバックしたのは、千紗の可愛らしい優しげな笑顔。 千紗に初めて出逢った“あの日”。 4月。 女子トイレで私は苛められていた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加