欲望

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どうでもいい。 早く、終わればいいのに。 「千紗のお母さんは、あの…なんだっけ…………そう! “もんすたーぺあれんと”っていうやつなんだからね!」 ……は? 隣で喚き散らす千紗を見て、私は目を細めた。 「何この子」 「意味不明」 流石の女子達も、私を掴む手を離し、トイレから走り去って行った。 後には、いじめられていた子と、なんかよく分かんないけどいじめを止めた子が残った。 私は、制服に付いた埃を払う。 その様子を、千紗が食い入るように見つめていた。 「……何?」 私は眉をひそめて、千紗を訝しげに見る。 千紗ははっとしたように左右に手を振った。 「ち、違うよ?ただ、綺麗な人だと思って…」 千紗は必死に弁解する。 だが、いきなり千紗は笑みを浮かべた。 「ただ、話せてることが嬉しくて…」 千紗は目に涙すら浮かべた。 私は不覚にも、ちょっと嬉しいと感じてしまった。 「美嘉ちゃんって、サッカー部のマネ希望なんだよね? 私ね、美嘉ちゃんがいるからそこに決めたんだよ。 入学式の日、見かけた時に“綺麗な人”だなって、思ったの。 仲良く…なりたいなって…」 サッカー部のマネ希望は、あくまで“希望”だから、 辞めようと思えば辞められたはずなのに、辞めなかった。 千紗に対して、何か甘かったのかもしれない。 千紗の屈託のない笑顔を見て、 “可愛い”と一瞬でも思ってしまった自分を、呪った。 千紗に関わらなければよかった。 悠太先輩のことではなく、 千紗が私に関わったことで、千紗の未来が変わってしまったというのなら、 私はきっと、生きていても、誰を幸せにしてあげることも出来ない。
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