欲望

17/17
前へ
/110ページ
次へ
私は震える声で手紙を読みあげる。 「……『大好きな美嘉へ。 美嘉の17歳の誕生日ということで、この手紙を書いてみました。 美嘉と初めて話したのは、女子トイレだったね。 私ね、凄く嬉しかったんだ。 実は私、今まで友達と呼べる人がいなくて、 ずっと、孤独だったの。 うわべだけの友達。 独りにならない為の友達。 “友達”と思い込んで、 どうして孤独か分からないまま“幸せ”と毎日過ごしてた。 そして、高校生になって、美嘉に出逢ったの。 “この人なら、私を理解してくれる”。 私は、そう思った。 入学式の時から美嘉は、悲壮な雰囲気を纏っていたよ。 それは、今でも変わらない。 何が美嘉を苦しめているのか分からないけれど、私は美嘉に笑ってほしいな。 美嘉が、大好きだよ。 何で?って聞かれても、答えられないくらい大好き。 生まれ変わって、また再び出逢うことが出来たならば、 また一緒に、移動教室がしたいです』…」 最後の方は、涙が邪魔して声が掠れてしまった。 その後、膝をついて二人で声をあげて、泣いた。 きっと私達は、何かを手に入れた代わりに、 それまで自分達二人を本当に見てくれていた人を見失ったんだ。 千紗が一番、孤独だった。 私は蒼く澄みきった空に向かって、大きく片手を伸ばし、 「ありがとう、千紗…」 と呟いた。 せめて、『ごめんね』ではなく『ありがとう』を。 天国にいるであろう千紗へと送った。 その光景を、影からこっそりと盗み見している男がいた。 男は、驚愕と困惑の表情を浮かべる。 目が虚ろだ。 「岡田千紗は…他殺? しかも…相沢さんによって殺された…―――」 男はニヤリと怪しげに笑う。 男は、結衣の元彼である神谷 比呂だった。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加