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私は、隣で歩く、ハムスターみたいに小さい千紗を見下ろした。
『千紗にあって、美嘉にないもの。一度、考えてみるといい』
―…意味わかんない。
私は目を細めた。
―…私のどこが、この子に劣っているというの?
「あっ、蓮~」
千紗が、廊下の奥に見える人影に向かって、手を振った。
「お、美嘉と千紗じゃん」
その人影…蓮は、友達の会話を抜け出して、こちらへ歩いてきた。
蓮は千紗の彼氏。
「また科学サボったでしょ」
千紗が笑って言った。
「だって、科学の川島のジジイ、俺のこと睨んでくるんだって」
「いっつもサボるから、目、付けられてるんだよ。成績表、もう知らないから」
会話する千紗の隣で、私は窓の外を見ていた。
グラウンドでは、3年生の男子が、体育でサッカーの試合をしていた。
当たり前のように、フォワードの中から悠太先輩の姿を見つける。
その後ろ姿に、私は寂しく感じた。
もうあの背中を、私が追いかけることはない。
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