強姦

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「あ、アンタもいたのね、蓮。相沢美嘉の犬」 結衣が口に片手を当てクス、と笑う。 「結衣、テメェ…」 蓮の顔が怒りに染まる。 私は蓮を片手で制した。 「何で」 そして、結衣を見据える。 すると、結衣は鼻で笑った。 「『何で』…? アンタって馬鹿。自分が一番よく分かってるんじゃない」 結衣は私を嘲笑う。 けれど、悔しくともなんともない。 きっといつものような『彼氏を盗られた』等の、身に覚えのないことだろう。 いつもなら、睨み付けて追い払う。 そう。いつもなら。 私は彼女を睨まなかった。 ただ、 『可哀想なひと』。 それだけ思った。 蓮の目は結衣を捕らえて放さない。 結衣はそれをも気に止めず、組んだ腕を解く。 「…アンタ、悔しくないの?」 流石の結衣も、顔色一つ変えない私を不気味に思ったのか、 眉をひそめて怪訝そうに私を見た。 私は綺麗に笑ってみせる。 「悔しい?誰にものを言っているのよ。 馬鹿にしないで」 私が笑顔を崩さずに言い切ると結衣は悔しげにキッ、と私を睨んだ。 ―…哀れね。 私は目を細めた。 「行きましょう、結衣」
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