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私達ふたりは蓮を教室に戻るよう促し、屋上へと向かった。
私達は近いような遠いような、微妙な距離を保っていた。
階段を上る時も、会話がない。
ただ静かに、ローファーの淡々とした足音だけが響く。
お互い、話す気などなかった。
私は屋上のドアの手前に立つ。
ドアノブに手を掛けて回すと、古いドアは軋んだ音を立てゆっくりと開いた。
私達ふたりは、その足で手すりに歩み寄り、並んで凭れ掛かった。
沈黙を置いて先に口を開いたのは、結衣。
「…アンタ、まさか比呂と付き合ってないでしょうね」
結衣は冷たく、私を睨んだ。
私は数度瞬きしたが、ふっと笑った。
「…なんだ、そんなこと」
結衣が顔を歪ませる。
「『そんなこと』?簡単に言わないで。私は本気なの」
結衣が私の片腕を強く掴む。
「アンタは私の大切な人を、いとも簡単に奪った…。
許せない…どうしてアンタなの……?私はもっと…ずっと……」
結衣の瞳が不意に潤んだ。
鬼の形相をした結衣は歯軋りをし、私の腕に爪を立てた。
私は激痛に耐えきれず、顔を悲痛に歪ませて結衣の腕を振り払う。
そして自分の腕を、もう片腕で擦った。
すると、結衣は目を細め、腕を組んだ。
「アンタは、変わった。前は、人形みたいに表情変えなかったのに。
…蓮が変えたのね」
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