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「先生、やっぱり私のこと、好きでしょ」
「そうだよ」
ここぞとばかりに秋月はからかうように言うから、面白くなくてきっぱりと肯定してやった。
自分から言ったくせに、当の秋月は笑顔を張り付けたまま固まっている。
「さっき……もう俺の生徒じゃないって、言ったろ」
そんな間抜け面でさえ愛しくて、もう誤魔化すなんてできなくて。
自分の気持ちを整理するように、少しずつ言葉を紡いでいく。
「初めて出会ったときから、俺にとって秋月はただの生徒じゃなかったよ」
しんと静まり返った部屋に、聞こえるのはお互いの息遣いと、どうしようもなく騒がしいこの胸の鼓動。
秋月の耳に届いているんじゃないかってくらい。
冷たい空気に紛れている、つんと鼻を刺す病院特有の匂いは、いつかの保健室を彷彿とさせる。
自分の中にある恋心に気付いた、あの日を……
ただ違うのは、秋月の目が大きく開いていて、確かに俺を映しているということ。
「お前は……助けてやったのに、ありがとうも言わない礼儀知らずな近所のクソガキで、本当は寂しいくせに大丈夫って強がって笑う、ただの小さな女の子だった」
視界いっぱいの桜色が脳裏に色鮮やかによみがえって、微笑む。
あの時も、俺は一瞬、秋月の姿に目を奪われていた。
もしかしたらあの瞬間から、何かが俺のなかで始まっていたのかもしれない。
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