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  聞き慣れない駅の名を繰り返すアナウンスに、注意深く耳を傾ける。 目的の駅で間違いないと確認して、席を立った。 長時間の乗車ですっかり固くなった体を解すように伸ばすと、大きな欠伸がひとつ漏れた。 少し滲んだ視界に、窓の向こうに広がるのどかな田園風景を映す。 電車はゆっくりとスピードを落とし、寂れて人気のない駅のホームへ滑り込んだ。 「お客さん」 降り立った無人駅には、ボロボロのベンチと雨を凌ぐ屋根がちょこんとあるだけで、あまりに殺風景なその場所に唖然としていると、車掌が気だるそうに声を掛けてきた。 「切符」 「え、あ……はい」 差し出された手のひらに切符を渡すと、小さくお辞儀をして、車掌はまた電車へ乗り込んだ。 カタンカタンと単調なリズムを刻んで、電車は再び走り出す。 「……さて、どうするかな」 小さくなっていくその姿を見送りながら、俺は予想以上に何もないその場所で1人、途方に暮れた。  
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