何かが足りない日常

2/13
前へ
/158ページ
次へ
  「ありがとうございました」 その声に見送られ、弁当が入ったレジ袋を手に、家路を急ぐ。 時折中を覗いては、いつの間にか傾いているそれを元の向きに戻す度、温めた甲斐も虚しくどんどん冷めていくから、溜め息を漏らす。 人の気持ちもきっと同じ。 時間が立てばどんな熱も冷めてしまう。 “あいつ”も、遠く離れてしまった今、冷めていく気持ちを実感しているだろう。 むしろ、好きなんて気持ちはやっぱり錯覚だったと気付いたかもしれない。 最近じゃ、こんな風に少しばかり干渉に浸っては、深い深い溜め息を落とす。 留めようにも溢れ落ちる嘆息に、自分の未熟さを思い知ってまた溜め息、の堂々巡りだ。 そんな、4月も半ば。 新学期を迎え、教職に就いてからやっと1年が過ぎた。 慌ただしい日々の中で桜の花を楽しむ暇もなく、いつの間にか盛りを過ぎた木々からは既に青々とした若葉が芽吹いている。 そして、去年とはまた全く違う新しい日々に少しずつ慣れてくると同時に、物足りない“何か”に気付く。   その“何か”の正体をなんとなく知りながらも、敢えて口にはしないけれど。  
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4789人が本棚に入れています
本棚に追加