プロローグ

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妻の死を知ったのは、くしくも病院から連絡があってから5時間以上立ってからのことだった。 一人娘が独り立ちしてから妻が仕事中に僕の携帯にかけてくることはほとんどなくなり、仕事中は会社から支給された携帯だけ持って移動するようになっていた。若い頃と比べて急に飲みに出かけるということもなくなったのでこの行為は自然に思えたし、そもそも私用の電話と2つも持ち歩くのが煩わしかったのだ。 しかし僕はこの行為を一生後悔し続けるのだろう。僕は妻を愛していたのだから。 せめて仕事用の携帯の番号を妻だけでなく娘にも伝えておくべきだった、と意味のない後悔を繰り返しながらタクシーに揺られていた。病院へ行ってくれ、とだけ伝えたため運転手は演歌を流し口ずさんでいる。 「もしかして、おめでたですか?」 という言葉が聞こえた気がする。この頃の記憶は今も曖昧だ。
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