プロローグ

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ここからまた記憶は途切れ途切れだ。次に覚えているのはお通夜の日。お礼返しをどの位用意したらなど検討もつかない私に代わり、美香がごく親しかった人に連絡をしてくれ、法事までのだいたいの段取りを決めてくれた。 僕は僕で妻は転落死だったため、事情関係の確認におわれていた。妻は老朽化したマンションの階段の手すりから落下したようだった。妻は子供が手を離れてから介護の仕事についていた。元々児童相談所で働いていた妻は、結婚し子供ができて退職した後も誰かの役に立ちたい、と思う気持ちは強かった。 美香が独り立ちし児童養護施設で働いている友人から誘いの言葉がかかったようだが、「今はこっちの方が人出が足りないみたいだから」という理由で資格を取り、その仕事についた。妻らしいと僕は思った。 その仕事の最中、妻は老人をかばって転落したようだ。 妻らしい、またそう思い、始めて涙がつたった。
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