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それでも信じ続ける[阿修→東]
裏切りってのは、裏切る側と裏切られる側が両方ともがそう感じて初めて裏切りって行為になるんじゃないかって、思うんです。
何を思ったのか、修兵は突然そう呟いた。その前に何かを言っていた記憶はない。
修兵は特に返事を求めているようでもなかったが、無視するにはヤケに重苦しい話題だったために筆を休めて修兵に向き直った。
「裏切った方からすれば、それは裏切りではないかも知れない。裏切られたと思った方が勝手に信じて、勝手に裏切られた気になってるだけかも知れない。裏切られた方だって、裏切られたとは感じてないかも知れない。信じてなかったかも知れないし、未だに信じているのかも知れない」
修兵にしてはいつになく饒舌だ。一つしかない窓の縁に肘をかけ、目線はじっと空を見上げていた。その横顔からは何を考えているのか読み取れない。
「だから、つまり」
俺は裏切られたとは思ってないんですよね、不味い事に。
そう続いて漸く、この話しが藍染らの一件を指しているのだと理解した。
まったく周りくどい。
「だって俺は、雛森程に藍染隊長に陶酔してはいなかったし、吉良程に市丸隊長を信じてもいなかった。そして…まだ、東仙隊長を信じていますから」
相変わらず視線は窓の外だ。表情も変わらない。傷跡のある頬が、窓からの光に影をつくってやけに感傷的にさせる。
「少なくとも、他は裏切りと取るでしょう?それなのに、副隊長の俺が。まだ、あの人を信じている。例え他の誰があの人を否定しても、俺は」
隊長の進む道を、信じています。
それは、刑軍や総隊長の耳に入ったら処罰を受けるような発言だった。
あの…確実な裏切りを受け入れる。それがどんなに危うい事か…こいつが知らない筈がない。知っていて、尚、信じるのか。
「そんな俺を…あなたは笑いますか」
…俺がお前を笑えたならば、どんなに楽だっただろうか。
何も言えない俺に、やはり修兵は何も言わなかった。
***
阿修→東
理解も同情も否定も嘲笑も出来ない
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