1⃣ 二律背反

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『枕草子』風に言うなら、校舎は朝――。 朝の学校――まだ誰も登校してきていない校舎内の独特の雰囲気が、僕は大好きだ。 数十分後には、なだれ込むように押し寄せる生徒の群れ。彼等が発するけたたましさに備えて、鋭気を養っているかのようなコンクリート・パレス。 まさに嵐の前の静けさ。 放課中や昼休みは、若いエネルギーがぶつかり合って、とんでもない喧騒ぶり。最高潮を知っているからこそ、0地点に妙に安心感を感じるのだろう。 僕の名前は、西前京介。ここ愛知県立M高校の2年生だ。 この空間を独り占めする為に、朝早く登校するのが日課だ。
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