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「……っ」
ズキズキと痛みが増してきた左腕を押さえながら、三枚橋まで来ると小田原藩兵と僕と刃を交えた本山、そして江戸で会ったことのある伊庭がいた。
僕は、三枚橋の上で繰り広げられている戦闘を少し外れた木陰に隠れて眺めた。
山々に囲まれた盆地地帯の中で、ここ三枚橋だけは少しだけ拓けた場所となっている。
雨のせいで水高が増して、川の流れが速く、一度橋から落ちてしまえば、たちまち流されて溺死するだろう。
「遊撃隊を率いている伊庭八郎……。奴の首さえ討ち取れば……この戦、終わる」
長髪を揺らしながら、洋装姿で刀を振りかざして敵兵と対峙する伊庭を睨み付けた。
向こう側からは官軍である小田原藩兵が、こちら側を陣取るのはおそらく幕軍の遊撃隊だ。
形勢は、幕軍が有利。
しかし、奴らの背後を付け入ることができれば……形勢は官軍側に傾く。
僕と共に来た仲間は、まだ追いついてきていない。
だけど待ってる時間はない。
狙うは……伊庭八郎、ただ一人だ。
瞼を綴じて、頬を伝う雨水を感じながら僕は、深く深呼吸を何度か繰り返し、抜身の刀を強く握りしめた。
「早く終わらせて帰る……」
江戸では、桂を待たせている。
早く帰ってあげないと、くどくどと説教されるのが想像できる。
そのためには、伊庭八郎を殺さなければならない。
目を開けて、木陰からゆっくりと出て、三枚橋へと向かう。
殺気を悟られては終いだ。
あくまでも奴らの仲間の振りをして、できるだけ近付き、そこで奴を斬り捨てる。
橋の上に差し掛かると共に歩調を除々に速め、上段に構えた。
伊庭八郎に狙いを定め、遊撃隊の仲間の間を走り抜けると大きく刀を振りかざす。
「はぁぁぁあっ!!!!」
「なに……っ!?!?」
ヒュンッと空気を引き裂く音と共に僕の手には肉を斬り裂いた感触が伝わってきた。
ニヤリと片方の口角を持ち上げて、顔を上げると苦渋を浮かべた伊庭の表情が見える。
片方の腕が無くなり、斬り口から血が滴り落ち、橋板を真っ赤に染めていた。
「……ちっ。しくじっちまったぜ……。奴さん、江戸、以、来……だなぁ……」
腕を失った伊庭は、苦痛に顔を歪めながらも口元には余裕の笑みを貼り付けている。
その余裕の笑みも消してあげる……。
何も言わず、僕は下段に構えた。
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