第十八章

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周りが僕達と同じように刃を交えては、斬り、交えては斬りを繰り返されている。 今日一日中降っていた雨は、次第に弱くなっていた。 そんな中で僕は、目の前に居る片腕を無くした伊庭という男を見据えた。 片方だけとなった手には刀が握られており、強く握りしめているのが分かる。 そして、この男の目を見れば、まだ諦めていないといった気持ちがあった。 「……死ね」 小さく口を動かして一言吐き捨てると橋板を蹴った。 キンッと澄んだ音が響き渡る。 「……っ」 「へっ……簡単に命を渡すかってぇの!!片腕が無くなっても、まだ一本残ってるぜぇ、奴さんよ」 「調子に乗ってると痛い目見るよ?」 首元を狙って横に振り払った刀を寸でのところで防がれ、挙句に不敵な笑みを浮かべた伊庭を見据える。 ガチガチと刀と刀が音を発てている。 たった一本の手で握りしめている刀で防がれ、若干焦りを覚えた。 伊庭は、上手く僕の刀を受け流すと再び、距離を取って、僕の出方を窺い始める。 瞬発力があるから、直接首元を狙うだけでは防がれてしまう。 とすれば、刀を弾けば、隙が生まれ、仕留めることができるか……。 そう頭の中で次の手を考えると大きく踏み込んで、伊庭の刀を目掛けて下から上へと振り上げた。 すると作戦通り、伊庭の手から刀が離れ、素手となった彼は顔を歪める。 僕は、その一瞬の隙を見逃さず、一気に刀を引いて、奴の首元を狙って突きを放った。 しかし……。 「甘ぇよ。持ってるのは刀だけじゃねぇ」 「な……っ」 僕の突きは、伊庭の首筋を少し掠めただけであって避けられた。 そして奴は勝ち誇った笑みを見せて、胸元から小さな黒い物体を取り出す。 バァンッと近くで破裂音が聞こえ、それと同時に僕の胸元が熱く焼けるような痛みを感じた。 「あ……っ」 「俺の腕を斬った代償だ。恨むなよ、長州の端くれさんよ」 「あ、はぁ……はぁ……っ」 あまりの激痛に思わず、持っていた刀を落とし、痛む胸元を押さえた。 どくどくと胸元から赤い液体が溢れ出し、上手く呼吸も出来ず、彼から距離を取るために後ろへ下がる。 欄干にもたれた僕の目の前に居る伊庭が黒いピストルを構えて、こう言った。 「刀の時代なんざ、とっくに終わっちまったぜ。悪く思うんじゃねぇぞ、これは俺らの戦だ」  
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