プロローグ

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大樹にしては枝が無い、幹と思われる部所も無い、あるのはアスファルトを突き抜けアーチを描くかのように身を乗り出した樹。 これは世界樹の根だ。 ユグドラシル戦争。 100年も前に人類と世界樹との戦争。 小学生5年生くらいになれば、学校から教わるほど有名な出来事。 彼は青ざめた。 いや、彼だけではない、生存している人間全てが恐れる。 世界樹の根を恐れる。 高校生の頃に習ったことがある。 『世界樹の根はタルタロスまで生え、地上に姿を現すときタルタロスの遣いを引きつれる』と、そんな迷信を。 いまだから言える。 それは迷信ではない、どうしようもない事実だと。 樹の表面からゲル状の液体があふれ出る。そしてそれは徐々に形を成していく。 脚は持たず、骨格・外骨格・貝殻のような硬い構造も持たない。 また前に4つ、両側面に8つの目あり、左右相称ではあるがあまりはっきりとはそれが現れない。 体が細長く蠕動により移動するそれは正に、魔物(ワーム)だ。 一匹のワームが、12の目で生存者の一人を捕捉した。 捕捉した人間に接近する。 人間は逃げようと倒れた体を起こそうとするが、体が上がらない。足が瓦礫の中に埋もれて身動きがとれない。 予感した、この人間は死ぬ。 ワームはすでに、目と鼻の先、目の前にいた。 正面にあるワームの目に、男の姿は映し出された。 とても酷い顔をしていた。 絶望に浸り、生気を感じられないそれは、死顔だった。 ワームの顔が十字に割れ、大きな口を解放する。 口の中には無数の触手が沸いており、それは人間の身体に絡め、口の中へ引きずり込む。
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