プロローグ

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人間はあっさりと死んだ。 ワームに飲み込まれてしまった。 大の大人の身体を一飲みにしてしまうほど、武器を持たない人間にとってワームは強大で畏怖される存在だ。 一人の人間が飲まれる始終を見た女性が悲鳴を上げた。 それはとても愚かな行為だ。 ワームは見た目以上に視覚が優れていない、現にヘクターの目の前にもワームは存在するが、彼はまだ襲われていない。 いや、ワームはまだ彼の存在に気づいていない。 ワームの目は飾りも同然。 やつらは視覚に頼っているのでない。 やつらの聴覚は卓越している。 やつらは人間の微かな音を聞き逃したりはしない。 黙っている分には問題ない、だが、声や身動きを取ろうとする音は獲物と認識する、人間に限って。 つまり、彼女の悲鳴は自殺行為の以外でもなんでもない。 数匹のワームが一斉に女性に襲い掛かかり、逃げる猶予もなく息絶えた。 彼女の亡骸を互いの触手で奪い合うワーム、それはまるでミミズを奪い合う雛鳥にそっくりだ。 生存者はワームの餌にすぎない。 ヘクターの目の前にはワームがいる、ワームの目の前にはヘクターがいる。 互いが存在を認識しているわけではないが、危険な状態であるのは変えられない事実。 彼は意を決して、逃げる決断をした。
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