14人が本棚に入れています
本棚に追加
人間はあっさりと死んだ。
ワームに飲み込まれてしまった。
大の大人の身体を一飲みにしてしまうほど、武器を持たない人間にとってワームは強大で畏怖される存在だ。
一人の人間が飲まれる始終を見た女性が悲鳴を上げた。
それはとても愚かな行為だ。
ワームは見た目以上に視覚が優れていない、現にヘクターの目の前にもワームは存在するが、彼はまだ襲われていない。
いや、ワームはまだ彼の存在に気づいていない。
ワームの目は飾りも同然。
やつらは視覚に頼っているのでない。
やつらの聴覚は卓越している。
やつらは人間の微かな音を聞き逃したりはしない。
黙っている分には問題ない、だが、声や身動きを取ろうとする音は獲物と認識する、人間に限って。
つまり、彼女の悲鳴は自殺行為の以外でもなんでもない。
数匹のワームが一斉に女性に襲い掛かかり、逃げる猶予もなく息絶えた。
彼女の亡骸を互いの触手で奪い合うワーム、それはまるでミミズを奪い合う雛鳥にそっくりだ。
生存者はワームの餌にすぎない。
ヘクターの目の前にはワームがいる、ワームの目の前にはヘクターがいる。
互いが存在を認識しているわけではないが、危険な状態であるのは変えられない事実。
彼は意を決して、逃げる決断をした。
最初のコメントを投稿しよう!