14人が本棚に入れています
本棚に追加
ワームに気づかれないよう、慎重に脚を運ぶ。
一歩一歩、確実に助かる道を、さいしんの注意をはらい……、
パキッ。
ワームに意識をし過ぎて、足下の小枝の存在に気が回らなかった。ほんの三センチくらいの小枝だ、折ったとしても踏んだ本人にしかわからないほど小さな音だ。
それほど小さな音だ、それほど小さな音だが、ワームが認識するには充分すぎる大きさだった。
ワームが口を開き触手を巧みに操る。ワーム特有の獲物を捕まえる姿勢だ。
ヘクターは死を悟った。
ここが自分の死に場所であると。
愛する妻と娘を残し。
彼は受け入れるかのごとく目を閉じた……。
「大丈夫かおっさん?」
それは彼の予想を裏切る言葉。
ゆっくりとまぶたを上げると、そこにいたのはワームではなく後ろ姿の少女が立っていた。
「ったく、危ないところだったんだぞ。ほら、立てるか?」
少女が手を差し伸べた。
正面から見る少女の姿はたくましさそのものだ。
左右それぞれを高い位置で結ぶ深い赤色の髪、深紅色の髪は自信を溢れさせるつり上がった瞳に相応しいものだ。
ヘクターは彼女の手を掴み立ち上がり、先ほどいたワームについてたずねる。
そして彼女は指を差し、その向こうには異常に大きい鎚に潰され、肉片を飛び散らしたワームの死骸が転がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!