人間水槽

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俺はケンスケを睨みつけた。 仲間が死んだのに忘れようだと? 潜水しようとするケンスケをユウキが素早く捕まえた。 「てめぇ……。何がカズキのことは忘れようだ!自分が助かることばっか考えて、お前には仲間を思いやる気持ちがねえのか!」 怒鳴るユウキにケンスケは怒鳴り返した。 「俺だって悲しいよ!」 泣いているのがわかる。 「俺だって、あんなわけのわからない怪物にカズキを奪われて悲しいよ!悔しいよ!だがな、ずっとそのことを引きずっていたら全員溺死することになるんだ。ひとりでも多く生き残るのが先決だろ。違うのか!」 ユウキは何も言い返せなかった。 そんなやりとりをしている間にも水位は十五メートルに達していた。 残り五メートルでこの部屋は水没することになる。急がねばならなかった。 「……行ってくる」 ケンスケがそういって潜ろうとしたとき、ユウキの身体が水しぶきを上げて水中に沈んだ。 怪物の腹はまだ満たされてはいなかったのだ。
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