花瓶

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薔薇は当時のぼくたちの身長ではとても届かないような高い棚の上に飾ってあったので、ぼくたちは見上げる形でそれを眺めました。 青色で不思議な模様が刻まれた花瓶は抱えないと持てないほど大きく、何十本もの赤い薔薇がそこに挿されていました。 「前の授業のときにこんなもの飾ってあったかな」 仲間のひとりのユウイチが、おそらくはみんなが抱いていたであろう疑問を呟きました。 「せんせー。この薔薇は先生が飾ったものですか?」 カズヤが教材をまとめて今にも理科室を出ていこうとしている先生に向かって叫びました。 「さあ、わからんな。先生が一時間目の授業でここにきたときからそれはあったよ。昨日まではなかったのにな。誰が飾ったのか知らんが、綺麗だしそのまま飾っておくことにしたよ」 先生はそう言うとそそくさと理科室を出ていきました。 カズヤはふーんと呟いて棚の上に目を戻します。 「やべぇ急がないと次の授業が始まっちまうぞ!」 「ほんとだ、やばいな」 仲間のケンの言葉でぼくたちは慌てて理科室をあとにしました。
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