花瓶

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そのとき、カズヤが手を滑らせたのをぼくは確認しました。 ガチャーン 宙に浮いた花瓶は地球の重力に引っ張られて床に落下しました。廊下まで響く大きな音を立てながら。 「きゃああ!」 短い悲鳴が上がった後、沈黙が訪れました。 棚の上を見ると、カズヤがやっちまったと罰が悪そうな顔をしています。 花瓶の破片が散らばる中、床に広がっていたのは、 赤い液体ではなく、透明の液体でした。 根拠のない噂は信じるもんじゃないなと思いました。 「学校の私物じゃないから大丈夫だよカズヤ。とりあえずみんなで片づけようよ」 カズヤをフォローしたのは仲良し五人組のうちのひとりのショウゴでした。 花瓶の中に入っていたのはごく普通の水だったという事実はその場の空気を一気に白けさせたようでした。 「何だよつまんねー。帰ろうぜ」 「あんたたちも片づけ手伝ってよ!」 ぼくたちは破片を集め、雑巾で床を拭きました。 棚から降りたカズヤの方を見ると、女子に囲まれていてケガはないかと心配されていました。花瓶を割ったことを一切責められている様子はありませんでした。
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