花瓶

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夕方の理科室はとても不気味に感じました。 犬の剥製や人体模型がじっとぼくを見つめているような気がして、ぼくは足早に自分の席に向かって教科書を探しました。 あった。よかった、盗られてなかった。 床に落ちていた教科書を見つけて喜んでいると、黒板側の入口から突然音がしてぼくは肩を弾ませました。 「誰!」 叫びながら入口を見ると、誰かが勢いよく理科室を飛び出していくのが見えました。 薄暗い理科室ではそれが誰なのかわかりませんでした。ただ、背丈から考えると、先生ではないことだけは確かです。 すぐに後を追って廊下を見ましたが、もうそこには誰もおらず、ところどころ電灯の点いた暗い廊下が広がっているだけでした。 ぼくは理科室の電気を点けてみました。 先程の授業のときに花瓶に挿されていた薔薇はホウセンカに替えられていました。 「コウター!コウタァァ!」 ここで外でぼくの名前が呼ばれているのに気づいて慌てて理科室を飛び出しました。
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