尾行

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再度振り返るが、何の変化も見られない。 ……気のせい、だよな? 気にしすぎだ。さっきの猫を見たときの動揺が幻聴として表れているのかもしれない。少し心を落ち着かせないと。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 背筋が凍りついた。全身にゾワゾワと鳥肌が立つ。 幻聴なんかではない。足音は確かに耳に入ってくる。 先程よりもはっきりと、大きく。 今、この瞬間にも何かがこちらに向かって歩いてきている。 だんだん足音が大きくなる。 意を決して振り返った。 灯の下に男が現れた。 キャップのついた帽子を被っている。そのキャップが顔に影を落としている。その姿が俺には化け物にも見えた。 男の歩みは止まらない。 身の毛がすべて逆立つような恐怖。 わああああああ! 俺は悲鳴を上げながら夜の路地を全速力で走っていた。 その時のことは必死だったせいであまり覚えていない。
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