沼の王者

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卵から抜け出て穴から這い出すと、そこには沼という巨大な戦場が広がっていた。 水辺に生い茂る背の高い水草が枯れると、それを餌とする微生物が大量発生する。すると、その微生物を食べる小さな魚たちが数多く誕生する。微生物に群がる小魚たちを一呑みにするのはもっと身体の大きな魚。穏やかな水面を割った鋭い嘴は食事中の大きな魚を捕らえる。魚を呑み込もうとする鳥を大きなニシキヘビが襲う。 そんな厳しい生存競争が繰り広げられるこの沼で、俺は生まれたのだった。 俺は陸上と水中どちらでも生きられる身体を持っていて、専ら肉食であった。陸上では蟻やコオロギ、水中では小魚を捕らえて食べた。 生まれたときの俺は鼠ほどの大きさしかなかった。なので、食事のときは自分が外敵に食べられないよう十分周りを警戒した。 突然目の前にアロワナが現れたときは全速力で穴に逃げ帰った。 猫に狙われたときは素早く落葉の下に隠れて猫が諦めて通り過ぎるのを待った。 当時はとにかく毎日生き抜くことに精一杯だった。 何度も襲われて死にそうになったが、その度に生死を賭けた天秤は生へと傾いた。
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