廃墟で

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「雰囲気あるけど、ありきたりだよな」 「うんうん何か物足りない感じ」 言葉とは裏腹に、みんなの歩く速度が落ちてきているのをぼくは感じていた。 建物全体が発するただならぬ雰囲気。離れていてもわかる建物内の静寂。 この廃墟は今までと何かが違う。 全員廃墟を前にして確実に怖じ気づいていた。 ぼくも例外ではなかったのだが、今回の肝試しを提案した人物ということで先頭を歩かなければならない空気だった。 五人で固まってゆっくり歩いていたのだが、ついに建物のそばまで来てしまった。 入口らしき扉が見当たらないので、壁にあいた大きな穴をくぐっていよいよ中に入ろうとすると、 「ごめん、やっぱりあたし無理……」 という声が後方で聞こえた。 振り返ると、それは女子の二人のうちのひとりだった。 「ここまで来て何だけど、この中に入るなんてとてもできない……。あたし、ここで待ってるわ。本当にごめん」 「そうか……わかった」 ぼくはそう応えたが、その他の三人は廃墟を前に緊張しているのか何も言わなかった。 女の子は遠慮がちに叢に座り込む。 逆にひとりで待っているほうが怖いんじゃ?ぼくはそう思ったけれども口には出さなかった。
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