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「行こう」
ぼくは廃墟に向き直り、少し屈みながら中に足を踏み入れた。
瞬間、ひんやりとした空気に包まれ、喧しい蝉の鳴き声が遠ざかる。
内部は薄暗く、壁にあいた穴や亀裂から光の筋が差し込んでいた。
ぼくは三人が入ってきたのを確認すると、懐中電灯を取り出してゆっくりと歩き出した。通路が狭いので必然的に一列に並ぶことになる。
みんな先程とはうって変わって口数が少ないため、廃墟内に響く音は四人の足音ばかり。
全員が緊張の糸を張り巡らせながらゆっくりと進んで行く。
もし、今ここで突然背中を押されたら、どんな勇敢な人でも間違いなく肩を弾ませるだろう。
ぼくたちはいくつかの部屋を通過していく。リビング、子ども部屋、浴室、寝室……。
壁の崩壊や物の散乱が激しくて入れない部屋もあった。歩く度に埃が舞い上がり、誰かが咳き込む。
特に何か超常現象が起きるわけでもなく、幽霊を見ることも、誰かが憑かれることもなかった。このまま無事に何事もなく終わると思っていた。
しかし、そんなことはなかったのだ。
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