257人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
めんどうなことになった。
さっき、夕方から突然降り出した大雨のせいで土砂崩れが起きたらしく、帰り道が通行止めになっているようだ。
俺はハンドルに拳を叩きつけた。
助手席には鬱病を患っている妻のアキコがいる。
病院から帰る途中だった。
大粒の雨がフロントガラスに絶え間なく叩きつける。
「土砂崩れが起きたみたいで帰れなくなったから、今夜はホテルに泊まっていくぞ」
俺はぶっきらぼうにそういったが、妻は下を向いたまま何の反応も見せない。
俺は舌打ちをした。
今になって思う。なんで俺はこんなやつと結婚したんだろう、と。出逢ったときは美人で明るくて社交的な女だった。そんな妻に惚れて告白したのだ。なのに今ではすっかり別人に変わってしまった。
どうしてだ。
俺が原因か……いや、そんなはずはない。妻は職場の人間関係に悩んでいたように見える。多分それだ。
前方に大きなホテルが見えてきた。
最初のコメントを投稿しよう！