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私は、顔を見たくなかった。
不思議と寂しくはなかった。
「桜子ちゃん、今日のハンカチは……?」
野山せんせいは私の顔色を伺うように、遠慮がちに言った。
私は黙ってハンカチを見せた。
「まあ、あの可愛いハンカチね。……桜子ちゃん、元気でね。さようなら」
私は、少し笑って、ようやく言った。
「……さようなら」
これは、本心からだった。
最後に話を出来た事は良かったかもしれない。
けれど。
やっぱり、もう会いたくなかった。
だから、笑えたのかもしれない。
「寂しくなるわねー」
母親が言った。
私は答えなかった。
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