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「チッ」
目が覚めて状況を理解した瞬間、私から零れたのは舌打ち。
鬱陶しく顔にかかった髪をかきあげて、小さく深呼吸と、ついでにため息。
「ドラマじゃないんだから」
なんて呟いて、隣で眠る男を見れば、呆れる程のドラマな展開に、漏れたのは嘲笑。
酔った勢いでヤッちゃって、挙句相手はイケメン。
これで、この人が金持ちだったりしたら、最早ギャグね?
ただ、今時ありふれすぎてて、こんなんじゃ全く笑えない低レベルな、ギャグ。
……とりあえず。
面倒な事は回避するに限る。
さっさとココを後にして、無かった事にするのが一番。
もう二度と会わないであろうイケメンさん。お元気で。ごちそうさまでした。
覚えてないけど。
* * *
あのイケメンさんとの朝から1週間。
携帯を拝借して私の番号を検索すれば登録があったから、ソレは削除した。
ヤり逃げは失礼だから、適当な金額は奴の財布に忍ばせてきた。
痕跡はキレーに消した。多分。
よって、あの一夜は抹消。
の、筈だったのに。
「だから、笑えないってば」
なんて、思わず口に出そうになったのは、目の前にあのイケメンさんが現れたからで、
って言うか、や、こーゆー設定のドラマとかね?漫画とかね?ケータイ小説とかね?見た事も読んだ事もあるわよ??
でもね?こっんな都合の良い事、リアルで起こっちゃダメだろ??
や、違う。
私にとっちゃ、都合が悪いんだった。
マジ、ウザイ。
やっと見つけた再就職先。
それなのに、よりにもよってそこの御曹司がこの間のイケメンって。
こんなバカみたいな設定はツクリモノの中で充分なのに、何故にこの身に起こるよ!?
え?
何?私、何か悪い事した??
日々、真面目に、……は兎も角、一生懸命生きてるってのに、何なのこの仕打ち!
神様が実在するのなら、是非みぞおちに一発入れたいトコだわ。
「久し振り」
ふと降って来た声に、小さく息を呑む。
気付けば、この御曹司の部屋に二人きりの状況で。
私の頭は、超高速回転で出方を探ってて、
「……初めてお会いするかと思いますけど」
出た言葉は、コレ。
必殺、なかった事に。って事で、納得してくんないかしらね?
「まさか、忘れた。とでも?」
「忘れた。と仰られましても、何の事か解りません」
あぁ、猿芝居。
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