prologue

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今朝だって、お気に入りのアナウンサーの笑顔を拝もうとテレビをつけると、どこにチャンネルを回したって同じニュースが流れていた。 それは先日、泉堂寺グループの会長、泉堂寺純也氏が亡くなったこと。 泉堂寺グループは、ロケット部品から建築業界まで、様々な会社を傘下に置き、政界にさえ圧力を掛けることが出来ると噂されているほどの、日本、いや、世界でも知らない人は少ないほどの旧財閥グループだ。 そんな話は正直興味ないけど、仕方なしにもその情報は飛び込んできた。 お気に入りのアナウンサーは慌ただしそうに原稿を読み上げ、経済アナリストのおじさんは経済影響は数兆円に昇ると謳っていた。 でも、そう。これも俺には関係ない。 確かに、異国の地で勃発する事件よりは密接的だ。現に俺だって、グループの傘下にある会社の商品は色々と使っている。少しは響くものがあるかもしれない。 だからといって、俺の生活が百八十度も変わったりすることなんてあり得ない。二、三度傾いただけでも大したもんだ。 仮に世界規模から見て、この事件が万ある歴史の一ピースだとしよう。 しかし、俺にとってはその千分の一、いやそれ以上、人生という一つの画の一兆分の一くらいだろう。 ましてや、そのピースには代用が効く。 そのピースがあるかないかだけで、完成する画が静穏的から官能的に変化するなんてあり得ないんだ。 だから、俺は知らない。 そのピースがなければ、画は完成しないってことを―― そして、ピースは決して、一つじゃないってことを――
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