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始まりなんて些細なもので、終わりに比べれば印象の薄いこと。勿論、それに尽きることではないのだけれど。
彼女は、走っていた。来る日も来る日も、自分の求めるものを探して。
しかし、同時に気付いてもいたのだ。ジュリエットがロメオにいうように、私にとってのあなたとあなたにとってのあなたは違うのだと。
「センチメンタルジャーニーってね」
「え、いきなり何よ」
石原憂の言葉に、友人は尋ねた。彼女は寂しげに、いや、どこか憂いを含んだような笑み、を返すだけでなにも喋らなかった。
大概ではある。日常というくらいだから。学生生活は見かけ自由の縛られたものなのだ。
「憂はすごいよね。何でもできちゃうし、就職先なんて選び放題じゃん」
悪意など決してない称賛は、刺繍針のような小さな切っ先となって、彼女に刺さってゆく。憂にはそう感じる風情は見受けられないのだが。
「ふふ、そうでもないよ」
彼女は自慢のマスクを被り、今日も笑うのだ。
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