9人が本棚に入れています
本棚に追加
双子
学校の授業も終わり、何人かの友達と一緒にクレープを食べてから自宅に戻り、自分の部屋の扉を開けると、そこにはいつもと変わらず、私と同じ顔をした女がいた。
私の妹の利恵子だ。
私と利恵子は高校生になった今でも、一つの部屋を共有している。
私達の部屋は八畳の洋室で、入口から向かって左側の壁際に私と利恵子の机が並べてあり(窓際の机が私の机で、入口に近い方のものが利恵子の机だ)、右側の壁際に二段ベッドが据え付けてある(上が私のベッドで、下が利恵子のものだ)。
都会の住宅事情とやらで、私達がそれぞれ独立した部屋を持てるような家には住むことができないのだそうだ。
「ただいま」
私が言うと、利恵子は私の方を向いて、「おかえり、お姉ちゃん。遅かったね」と言った。
「ちょっと友達と寄り道していたのよ」
私はそう答えて、机の上に鞄を置いた。
姉である私と妹の利恵子は一卵性双生児で、容姿が普通の双子に比べて恐ろしいほどに似ているせいもあり、他人が私達の違いを見分けるのは簡単ではない。
友達や学校の先生にもよく間違えられてしまう。
時として、実の両親でさえも、私達を取り違えてしまうことがあるほどだ。
もっとも、少し話をすればすぐに私達の違いはわかる。
なぜならば、私と利恵子は全くといっていいほど性格が違うからだ。
私が社交的で明るく、積極的な性格であるのに対して、利恵子は内向的で大人しく、どちらかといえば消極的な性格だ。
本来、一卵性双生児は一つの受精卵が細胞分裂を行う中で二つに分かれ、それぞれが独立した個体として成育したものであり、まったく同じ遺伝子を持った、いわば分身のようなものだ。
だから、本来であれば、性格や好みも似ているはずなのであるが、どこでどうなったのか、私と利恵子の性格は異なっていた。
あるいは、性格というのはその大部分が後天的に形成されるものであって、同じ遺伝子を持っていようがなんだろうが関係ないのかもしれない。
だけど、利恵子のその性格のおかげで、私は得をすることも少なくなかった。
私が利恵子を装うことは簡単だけれど、利恵子が私の真似をすることは容易ではない。
つまり、一方的な利用関係を築くには、もってこいだったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!