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「どう違うんですか?」
あくまで態度を変えずに、そして距離を変えずに彼女の心だけを狙う淳。
そんな淳に菜穂子はいつもの強気な態度がそぎ落とされ、おろおろしていた。
―――どこで、間違えた? 私、どうしてこんなに不安定なの?
じわりと追い詰められるのを如実に感じながら、視線も話題も逸らせずにただ押し黙ってしまった。
そのいじらしい様子に気をよくした淳は、クスリと笑うと口角をニッと上げて言った。
「……俺、先輩が好きです」
「!?」
「いつも俺のこと、嫌っているのか一向に見てくれませんけど。今日はアナタの視界に俺、映ってますよね?」
想像だにしなかった台詞に、菜穂子は目を見開いて彼を見つめたまま硬直した。
その目は、この男はなんと口にしたのだと訴えている。
それほどの衝撃を与えたのにも関わらず、淳の方は落ち着き払った態度を貫いた。
「ずっと言いたくて、でも言えなくて。先輩に追いつきたくて、俺なりに頑張ってきたつもりです。――今日、ようやく先輩に頼って貰えた……俺、ただの後輩じゃなくて、一人の男として見てもらえたって思っていいですか?」
落ち着いているかのようだが、心の中では不安でたまらない淳は最後の最後で強気に出られなかった。
全く自信などなかったけれど、そう思いたかったから。
一人の男には見てもらえているのだと、それくらいは感じたかったから。
だから今日こそはと、菜穂子の言葉を貰いたかった。
―――お願いだ。少なくとも男には見えてると言ってくれよ、先輩。
デスクに置いた右手に思わず力が入った。
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