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一方の菜穂子は、その言葉にハッとした。
否、どこか心の奥底で感じていたもの。
それを如実に掴みとれた。
―――私はずっと、彼を……男として見ていたんだ。
だから、むかついた。
だから、腹立たしかった。
その理由は……
気づいた途端、顔が赤らんだ。
急に、沸騰したかのように感情がこみ上げてきてぐらぐら揺れる。
「違う、私……わ、たしは」
「私、は?」
「アンタのこと。その……ずっと、男に見てた、から」
恥ずかしくて言いたくもない言葉のはずが、なぜか口にしていた。
それを菜穂子は疲れのせいだと思い込んだ。
そんなこと私が言うはずはない、と。
心の奥底で自分を否定しながら、それでも言葉が止まらなかった。
「嫌いじゃ、ない。ただ……ムカつく」
「ムカつく?」
大して淳は、喜び反面どう受け取ってよいのか分からない菜穂子の返答に今度はたじろいだ。
ムカつくと反芻しながら、それの真意を考える。
けれど、菜穂子の心理など分かるものだったらとっくに分かっている。
分からないからこそ、今必死で追い詰めているのだ。
残業マジックでもなんでもいいから、彼女を手に入れたいと。
いや、そうではなくて―――ただ、笑顔が見たい。
それだけだった。
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