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「ねぇ、先輩」
ここは賭けだ。
そう思った淳は、さらに距離をつめて菜穂子の左耳に唇を近づける。
触れるか触れないかの絶妙な距離を保って、囁くように問いかけた。
「それって、自惚れていいんですか?」
少しだけ軽いテノールが、耳奥を擽るように問いかける。
その声に、言葉に。
菜穂子は身体をピクリと震わせる。
けれど、たった今気が付いた気持ちを素直に認められるような女ではなかった。
ただ、拒絶することは出来ないほどには、菜穂子の気持ちは陥落していた。
向坂淳に―――
気が付いてしまったのだ。
ムカつくのも、嫌なほど視界に彼が映るのも。
誰よりも彼を意識しているのは、自分が淳に気があるからだと。
自分だけを見ない彼に腹が立つのだ……と。
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