2484人が本棚に入れています
本棚に追加
戸惑う菜穂子を見て、淳はさらに気分を良くした。
俺だけを、感じてくれている。
ただそれだけが幸せで。
だけど、ただ一つ。
ただ一つだけを認めて欲しくて、さらに甘く囁く。
「先輩の髪に、触れさせてください」
「……え?」
直球なのか変化球なのか分からない問いかけに、菜穂子はしかめっ面を上げた。
その顔に少しがっかりしながら淳は、一本の簪でまとめ上げただけの髪を勝手に解いた。
パラリと重力に従って落ちる黒髪が、跳ねる。
それを見ただけで、淳はドキリとした。
やっぱり先輩は……
「触れたいんです。あなたに―――もし、答えがイエスなら。その……笑って、下さい」
ここまで強気で攻めたのに、最後の最後で弱気になってしまう淳。
そのあべこべな態度に、彼の一言、動作に振り回されていた菜穂子は途端に緊張感が解れた。
最初のコメントを投稿しよう!