始まりの合図

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 戸惑う菜穂子を見て、淳はさらに気分を良くした。  俺だけを、感じてくれている。  ただそれだけが幸せで。  だけど、ただ一つ。  ただ一つだけを認めて欲しくて、さらに甘く囁く。  「先輩の髪に、触れさせてください」  「……え?」  直球なのか変化球なのか分からない問いかけに、菜穂子はしかめっ面を上げた。  その顔に少しがっかりしながら淳は、一本の簪でまとめ上げただけの髪を勝手に解いた。  パラリと重力に従って落ちる黒髪が、跳ねる。  それを見ただけで、淳はドキリとした。  やっぱり先輩は……  「触れたいんです。あなたに―――もし、答えがイエスなら。その……笑って、下さい」  ここまで強気で攻めたのに、最後の最後で弱気になってしまう淳。  そのあべこべな態度に、彼の一言、動作に振り回されていた菜穂子は途端に緊張感が解れた。
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