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緊張しているのは自分だけではなく。
むしろ彼の方ではないのかと。
たじたじになっているのは本当は自分ではないのではないかと。
気が付けば芽生えるのは、母性なのかなんなのか。
くすぐったい気持ちが止まらなくて、自然と口角が緩く上がるのが菜穂子は止められなかった。
「……どうぞ」
瞳を閉じて、彼に自前の髪を差し出す。
とはいえ、心のどこかでは彼に対する迷惑料のつもりだと言い訳する気持ちがせめぎ合っていた。
閉じて見えなくなった先に、彼が何を想っているのか。
どんな表情を浮かべているのか。
それに思いを馳せながらも、怖くて開くことが出来ない瞳。
またトクトクと心音がスピードを上げるのを感じつつ、ただ黙って静止しているとふわりと淳の手が差し入れられた。
少しばかりしっとりとしてしまった髪には、熱気が籠っているかもしれない。
汗ばんでいて、もしかして匂ったりしないだろうか?
差し込まれてから不安と後悔が押し寄せてきた菜穂子。
我ながら今さらだろうとツッコみながらも、彼の指先が毛先までゆっくりと滑っていく感触にピクリと震え、ギュッと目を瞑った。
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