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毛先を離れてまた差し込まれた手が、柔らかく地肌に触れたのを感じて手に力を込め、そしてその指先がゆっくりと毛先へと流れて落ちていく。
それが数度続いたころ、耐え切れず菜穂子は音を上げた。
もう、無理―――
「も、やめて」
ただ髪に触れられているだけなのに、何かを感じて止まない体のせいで自然と瞳が潤んでしまっていた。
久しぶりに開いた視界は眩しさと恥ずかしさで淳の表情を捕えられない。
ただするすると流れ落ちていた手が、指先だけでなく手の平ごと後頭部に差し込まれて見ただけで分かるほどに菜穂子の体が震えた。
それに気をよくした淳は、また少しばかり自信を取り戻し、最後通牒だとばかりに手に力を込めて引き寄せ鼻先が触れるほどの距離で菜穂子の瞳を覗きこんだ。
「先輩、目……瞑って。嫌なら、突き放して」
甘いのか冷たいのか分からない表情と声音で菜穂子を追い込む。
いや、追い込まれているのは菜穂子なのか、淳なのか……
そして逼迫した空気の中、薄く口を開いた菜穂子は小さく息を吐いてから覚悟を決めた。
そっと彼の胸元に右手の平を乗せる。
そしてデスクに置いた左手に力を込めて―――
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