ズルい思考と欲と

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   「それは、無理だろ」  無理と言いながら笑う先輩を見て、顔面蒼白になった。  ま、待って。  私の今日一番の楽しみのタオルをハイ! が出来ないとな!?  「私、どうすれば……」  心の声が、思わず現実にも飛び出てしまった。  これをせずして、私の今日は終わらない。―――んですけど。  「いや、別にどうもしないだろ」  「えー!? そんな簡単な問題じゃないんですよ!?」  「は?」  「もう、男の沽券くらいの死活問題なんです!」  「はぁ……?」  どうやら私の気持ちをさっぱり汲めない様子の先輩は、首を傾げて心底理解不能って表情を浮かべている。  けど。  私にとってみれば、どうしてそんなことが分からないのかむしろ不明だ。  ただタオルを渡すだけなら簡単なんだ。  要は、こう……やってる最中に渡すっていうシチュに最高に憧れてるのにー!!  想像に悶えて地団太を踏む私を見て、先輩は苦笑するとポンと手を私の肩に置いた。  そして少し膝を曲げて私の視線に位置を合わせると、じっと見つめて止まった。  「せん、ぱい……?」  その瞳にドキドキしながらも、こんなに見入られるのって初めてだなって恥ずかしくなってきた。    私まつ毛が短いから、じっと見つめられるとバレるかもしれない……なんてどうでもいい心配までしてしまう。  そんな私を例によって無視して、先輩は私を思いやってだろう優しいことを言ってくれた。  「葛西。お前の目指したいところは分からないけど。お前の言ってることは実現できないからさ。今、貰ったらダメか?」
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