ズルい思考と欲と

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 ―――今さら過ぎて言えないけど……私、野球のルール分からないんだよね。  という事実を感じながら、大声を出して走る先輩を見つめた。    びゅっと腕が伸びて、その指先からボールが離れる瞬間。  投げる時の先輩の眼差し。  それが好きで見つめてるけれど、詳しいルールの分からない私。  とりあえず、投げて打って走って一周すれば良かった……んだよね?  なんて首を傾げつつも楽しんでいたら、ポンと肩を叩かれた。  衝撃を感じた左側を振り仰ぐと、当たり前だけれど私の知らない人が立っている。  だって、先輩はグランドを走っているし、ここには先輩以外私の知る人はいない。    誰? という気持ちを込めた瞳で見つめると  「友香ちゃん、だよね?」  親しげに名前を呼ばれた。  「あ、……はい」  多分だけど、優しそうな感じがする。  戸惑いつつも、先輩の知り合いに違いないと思い、ぺこりと頭を下げた。      他愛もない話をしていると、目の前の尚人先輩のお友達? は不意に私の荷物を指差した。  「それ。何が入ってるの?」  「これは……」  どうやら、ここまでの大荷物を持っているのは私だけのようで、かばんがやけに目立っていた。    タオルは渡したけれど、まだ飲み物と、それから……  「まさか、お弁当とか言わないよね?」  「え、と。その……」  ドンピシャな回答をズバリと言われて、恥ずかしくなって少し俯く。  初めて会う人に、彼氏でもない先輩にお弁当を作ってきたって。  私ってどう映るんだろう? なんて感じて。  だけど、その人は私のそんな行動などお構いなしに、私にぐっさり刺さる一言をお見舞いしてくれた。  「友香ちゃん、マジ? 今日はこの後、いつも通りに先輩ん家で集まるけど。飯屋だから、そこで昼ごはんが定番だからさ……」        
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