ズルい思考と欲と

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 ―――と、友香!?  尚人先輩であろうその人から、私の名前が呼び捨てされてお弁当を持ったままの手を横から掴まれた。  突然の出来事に、いつもの1.5倍は目をかっぴらいて先輩を見上げる。  けど、先輩の視線はなぜか私ではなくて、目の前の先輩の友達……  「どうしたんだ? 西村」  「いや、別に」  「別にって。くくっ、お前慌てて走ってきた感じじゃね?」  「そうか?」  『ははっ』と嘘っぽい妙な笑いを、二人であげている。  なんだか空気が重たい、ような気がするような?  なんて思いつつ、先輩をチラリと見るとそのタイミングで  「つーか西村さ。手ぇ離してあげたら? お前力入れ過ぎで痛そう」  という指摘が入って、私と先輩と同時に掴まれた手首を見つめた。  見ると、確かに力が込められすぎて痛々しい感じの私の手首が目に映った。  突然起きたアレコレに、私はそこの神経の感覚が失われていたようだ。  少し白くなった手を見つめてそんなことを思っていたら、バッと勢いよく離された。  なんか、それはちょっと悲しい気もするけれど。  ―――ていうか、なんで先輩に掴まれたんだっけ?    今さらながらな疑問が浮かびつつ、手に握ったままの袋を掴む手にギュッと力を込めた。    何がなんだかよく分からないけれど……なぜか先輩と友達は、睨み合ってるような笑顔? を浮かべている。  でもどうして二人がそんな状況なのかは、さっぱり分からない。  そんなことよりも―――『友香』って。  先輩が私を呼んだ声が、場違いとは思うけれど耳奥でこだましている。  葛西って呼んでくれるのも、それだけで嬉しいけど。  やっぱり友香って呼ばれるのは特別で。  それが他のことなんてどうでもよくなるくらいに、嬉しい。  きゃーって叫びたい気持ちをとりあえずは抑え込んで、私はにやける顔を自分なりに押し隠して見つめあった二人を交互に見た。  「葛西、帰るぞ」  「へ……?」  「もう、終わるから。荷物まとめとけ」  先輩は不意に友達から視線を外すと、私には目もくれずにそう告げて、そそくさと階段へと向かって歩いて行ってしまった。  
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