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「あれ? 西村ってさ。友香ちゃんのこと、友香って呼んでなかったっけ?」
ついてこなくてもいいのに、俺の後を追いかけて後ろから話しかけてくる進藤。
―――チッ、うっとうしいなぁ。
「なぁなぁ。友香ちゃんってお前の何?」
「うっせ」
答える気なし、という意味を込めてただそう返事をすると、後ろからくすくす笑い出す進藤。
俺のことをよく分かってる奴だけに、俺がこれ以上言うつもりがないのもお見通しで、その上で笑ってやがるからたちが悪い。
「つーかさ。西村この後どうすんの?」
「……帰る」
「マジで?」
「っせーな。葛西いるし、俺いなくたっていいだろ」
進藤の言いたいことは分かってる。
いつも先輩んちで集まってみんなで反省会と称した昼飯と、そのあとのバカ騒ぎ。
多少派目外して酒ぐらいはちょこっと出たり。
面倒くさいと言いながら、なんだかんだでみんなこの後のことは楽しみにしてるわけで。
空気壊したくないという意思も働いてか、余程のことがない限り誰も辞退しない。
ましてや今日は……
「やっぱ、負けたか」
逆転敵わず、負けてしまった―――
先輩同士の「どっちがいい後輩を育てられたか」とかいう、今さらだろうバカげたメンツをかけての戦いに。
「まずいだろ、今日は」
後ろで未だにニヤニヤした進藤が、俺の肩にポンと手を置いてそういう。
けれどその本心は、全くそうは思っていないと伺える。
それよりも、俺が空気を壊すこと承知でブッチしようとしてることの方が、楽しくて仕方がないって声音で推測できる。
それがさっきのことと相まって俺をイライラさせた。
「っせーな。いいんだよ」
バシッと肩に乗る手を払いのけてそう言うと
「ハートマークのメールの子。あの子だろ? お前さー、認めとけば? そろそろ」
「は?」
「いい子は放っておくと、持ってかれるぞって。じゃ、まぁ頑張れ」
「お、おい!」
進藤は俺の背中を思い切り叩いて、そのまま手をひらひらと振って走って行ってしまった。
―――頑張れって、なんだよ。
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