ズルい思考と欲と

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 *  「私、帰りますね」  俺が、先輩からのいつもの誘いを断っていると、葛西の小さな声が後ろから聞こえた。  説得する先輩に背を向けて、反対を向くとやっぱり葛西が俺に向かってそう言っている。  ただ、なぜか俯き加減に。  「ちょっと待て葛西。もう帰るから」  呼び止めつつ、葛西の方へ近づこうとするとぶんぶんと手を振られた。  「いえ、大丈夫です」  「いや、大丈夫とかそういう問題じゃな」「先輩は、この後があるんでしょ? 私、一人でも帰れますから」  話す俺の声を遮って、葛西がそう言う。  ―――いや、大丈夫じゃないだろ。だってアレが……  「あ……と。アレは、私が食べるので」  「はぁ?」  「気に、しないでください。じゃ、失礼しましたっ」  「おい、葛西っっ!」  言うが早いか、葛西は脱兎のごとく駆け出してしまった。  俺はそれを焦って見つめながら、とにかく追いかけなきゃいけない気持ちにかられた。  なんだか、イラッと来た。  何がどうなって、葛西が今の行動になったのかがちっとも分からない。  来る道中は、機嫌が良かったはずなんだ。  それなのに、ここに来てからのアイツは、なんども曇った表情を見せる。  最後がコレでは、俺は葛西を何のために呼んだのか分からない。  ―――俺は、葛西に……  そこまで思った瞬間、ボスンと俺のバッグを投げつけられた。  「ってぇ」  若干の痛みを感じる右腕を擦りながら、投げられた方向を見るとそこには進藤がいた。  また、お前かよっ。  と言いたくなった瞬間  「行けよ西村、行けっ」  それだけ言われた。  しかもなんだか顔が偉そうだ。  いつもなら何か言い返すところだ。  けど、なぜか俺は、その言葉をするりと受け止めていた。    「わりぃ」  それだけ言って、投げつけられた鞄をひっかけて―――説得途中の先輩を無視して、俺は走り出した。  *
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