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「私、帰りますね」
俺が、先輩からのいつもの誘いを断っていると、葛西の小さな声が後ろから聞こえた。
説得する先輩に背を向けて、反対を向くとやっぱり葛西が俺に向かってそう言っている。
ただ、なぜか俯き加減に。
「ちょっと待て葛西。もう帰るから」
呼び止めつつ、葛西の方へ近づこうとするとぶんぶんと手を振られた。
「いえ、大丈夫です」
「いや、大丈夫とかそういう問題じゃな」「先輩は、この後があるんでしょ? 私、一人でも帰れますから」
話す俺の声を遮って、葛西がそう言う。
―――いや、大丈夫じゃないだろ。だってアレが……
「あ……と。アレは、私が食べるので」
「はぁ?」
「気に、しないでください。じゃ、失礼しましたっ」
「おい、葛西っっ!」
言うが早いか、葛西は脱兎のごとく駆け出してしまった。
俺はそれを焦って見つめながら、とにかく追いかけなきゃいけない気持ちにかられた。
なんだか、イラッと来た。
何がどうなって、葛西が今の行動になったのかがちっとも分からない。
来る道中は、機嫌が良かったはずなんだ。
それなのに、ここに来てからのアイツは、なんども曇った表情を見せる。
最後がコレでは、俺は葛西を何のために呼んだのか分からない。
―――俺は、葛西に……
そこまで思った瞬間、ボスンと俺のバッグを投げつけられた。
「ってぇ」
若干の痛みを感じる右腕を擦りながら、投げられた方向を見るとそこには進藤がいた。
また、お前かよっ。
と言いたくなった瞬間
「行けよ西村、行けっ」
それだけ言われた。
しかもなんだか顔が偉そうだ。
いつもなら何か言い返すところだ。
けど、なぜか俺は、その言葉をするりと受け止めていた。
「わりぃ」
それだけ言って、投げつけられた鞄をひっかけて―――説得途中の先輩を無視して、俺は走り出した。
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